書評『太陽を創った少年』著:Tom Clynes 訳:熊谷玲美

“14歳にして核融合炉を自作した少年”の物語である。

「!?」

14歳で核融合炉を造る!?

そもそも核融合炉って造れるの!?

という衝撃から手にしたこの1冊。自分の2018年ベストブックのひとつとして、私をはじめとする凡人の皆様におすすめしたい。

 

アメリカ・アーカンソー州のテイラー・ウィルソン君。彼がこの本の主人公である。9歳で“自分で仕組みを理解して自分で作った”ロケットを飛ばし、14歳で核融合炉を造った少年。一言でいえば天才。ギフテッド。本書に記載はないが、IQがすさまじく高いのは間違いない。アメリカだけでなく日本でも博士課程レベルの数理的能力を持った小学生なんかはいるもんだが、凡才の私からするとすごすぎて理解できない。仮に脳がすごすぎて数学的能力が発達している、までは分からなくもないけど、そもそも難しい文章を読むという能力は数理的能力じゃないのでは?となると天才少年って数理的能力と文章読解力(と単語力とか文章構築力とか)の文理にわたる才を持っているのでは?と思ってしまう。とにかく天才とは神秘的である。

本書はテイラー君の天才性を解き明かすだけでなく、両親をはじめとした周りの人間の支え、核融合炉をはじめとした放射線関係の技術解説、アメリカにおけるギフテッド教育の現状・課題といった複数のテーマを小刻みに互い違いに挟みながら描写した力作である。どのテーマも興味深いのだが、特に自分が惹かれたのは、テイラー君が放射線技術に夢中になっている姿である。彼は自分が興味を持ったものには猪突猛進、とことんのめり込む。そして、知能が高いからなのか、興味が強すぎるからなのか、その分野はあっという間に大学生レベルに到達する(独学で。加えて言えば、テイラー君は行動力、物おじしない性格、プレゼンテーション力、というどれか1つあるだけで一門の人間になれる才能を1人でいくつも備えている。さらに絶対音感を持ち幼少時は人を感動させる美しいソプラノボイスで金を稼いでいたという…!)。

テイラー少年は5歳の誕生日には工事用のクレーンを欲しがり、おもちゃのクレーンをあてがわれると「本物が欲しいんだ!」と地団駄を踏み親を困らせたそうだ(父親は本物のクレーンを取り寄せたとのこと…)。小学校3年生のころにはロケットの発射に夢中で、最初は市販の組み立てキット、次には図書館、インターネット、ロケットマニアのショップ、と学ぶ場を駆け足で登っていく(母親はロケットの形をしたオーガニック・ケーキを焼いてあげたそうだ)。10歳の誕生日に「放射性ボーイスカウト」という本に出会い、原子核物理学にのめり込んでいく。核融合炉制作に必要なものは山ほどあるのだが、粒子の加速器やらイエローケーキやらはガレージで自分で作り、ウランなどの材料は鉱山へ取りに行き、機器が無ければ企業へコンタクトを取って譲ってもらったり、と彼の八面六臂の活躍っぷりで地道に目標へと進んでいくのである。

とにかく彼の興味のある分野への夢中な姿は見ていて気持ちがいい。自分ももっと夢中になろう、なれると勇気づけてくれる。これが私が本書を好きな理由である。

…そこで我が身を振り返ってみると、最近何かに夢中になった記憶が無い。なぜ今の自分は夢中になれてないのか?それは仕方のない部分があるのだけれど、やはり大人にとって大事なのは成功することより失敗しないことだから、という面があげられるだろう。例えばスケジュール管理だとか、毎月の資金繰りだとか、経費管理だとか、楽しくはないけど必須なこと、いい大人はそういうことに時間と脳のリソースを割かなければいけないわけで。こういう大人モードな脳の使い方と夢中力が高まる子供モードを使い分けられるようにしたい。今思いつく具体的方策としては、「今日は15時までは子供モード!メール見ない!ネットしない!電話もでない!」と時間を区切るなどしてモードを使い分けるのが良さそうに思える(とくにネット接続を一時切るのは効果ありだと思う)。

最後に寝食を忘れるほど何かに夢中になったのはいつだろう? 人は工夫次第でいつでも何かに夢中になれると思う。何かに夢中になれるというのは、大きな実りをもたらしてくれるし、もっと言えば夢中になっているその時こそが人生のハイライトの瞬間なのだろう。天才少年テイラー・ウィルソン。その頭脳は真似できないが、好きなことに夢中になる姿は私の青春時代を思い出させてくれました。折に触れて読み返して、勇気をもらいたい、そんな1冊です。

ちなみに本書は様々な面白トピックにあふれている。たとえば「ブドウと電子レンジでプラズマを作ることができる(危険なので真似しないこと、とのこと)」「スコッチテープを真空中で剥がすと中性子とX線が発生する」など。本書で言及されるまでもなく科学好きの間では有名なトピックのようですが、私はおおいに驚いたのでした。ああ、あと核融合炉自作についてですが、世界で30人ほどが核融合炉の自作に成功しているそうです。こう聞くとバックトゥザフューチャーのドクもあながち荒唐無稽では無い…?

しかしこの年になって科学に興味を持つなんてね。今年は物理の本を多く読んでいます。何か所感を書き記せられれば、と思っております。

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