名古屋ギターフェスティバル コンサルティング

私は「デザイン戦略は4次元的に組み立てましょう」と話すことが多い。ポスターやチラシなど“モノ”の制作(平面上でものを考える)、どういうツール・媒体を組み合わせて展開するか(考慮の対象が平面から世界に)、そしてタイミング・期間・計画(時間の概念)、これを組み合わせれば4次元である。デザイナーに何か依頼される時はモノの制作だけでなくモノの活用、さらには根本の戦略にまでさかのぼって相談されることをおすすめする。

名古屋ギターフェスティバル

2013年に名古屋の若手クラシックギタリスト生田直基さんによって開催され、以降毎年夏に開かれているクラシックギターの祭典である。“名古屋飛ばし”という言葉があるように、国内外の一流プレイヤーが演奏のために来ることはあまり多く無い名古屋だが、そんな地において“本物の演奏を聴いてほしい、そして名古屋の音楽文化を底上げさせたい”という志で名古屋ギターフェスティバル(NGF)は運営されている。

実際出演するギタリストは国内外で一流の演奏家ばかりであり(主催の生田さんも一員として公演している)、場合によっては本邦初公開なヨーロッパの超絶ギタリストが招聘されることがあり、東京でも中々聴けない充実度としてNGFは名古屋の地で異彩を放っている。開催場所もここ数年は名古屋の中心地・栄にある宗次ホールで開催され、文化を発信していくにはふさわしい場所を本拠地としており、イベントのポテンシャルは大きい。

リニューアル前のデザイン

課題

そのポテンシャルを存分に発揮できていないのが課題である。例えば集客の面で言えば、毎年宣伝活動は主催の生田さんが中心になり、チラシをまいたりWebで告知をしたりと一通りのことは行っていた。しかし戦略を持って宣伝活動を組み立てるのは容易なことでは無く、本人も運営や演奏など仕事は山積みで宣伝業務については販促物を手配することで精一杯の状況であった。その結果チラシやwebなどメディア間のシナジーの活用や、告知のタイミングなど段階的な要素も考慮されておらず、宣伝の効率はあまり良くない状況だった。

そしてブランドイメージの受け皿となるロゴが無いせいで毎年開催されるフェスティバルにも関わらず知名度・印象度が蓄積されづらくなっており、毎年リセットされた状態から宣伝活動が始まっていた。

「せっかく毎年行われるフェスティバルであるのだから、“夏の名古屋の名物イベント”としておなじみの存在を目指そう」。私は生田さんにそう伝えた。

提案

・VIの開発

・段階を踏んだプロモーション

・Webをよりどころにする

大きく3つの提案をさせてもらった。

「VIの開発」、VIとは要するにビジュアルアイデンティティ、ロゴやテーマカラーなどのことである。“名古屋ギターフェスティバル”という名称だけでなく、色・形・表現を用いて視覚的に具現化された感覚に訴える存在を持とうと提案した。

VIを制定する意図とその効果は全部書くと長くなるのでかいつまんで記すが、一番の意図としては年度ごとに印象のばらつきがあったNGFにVIで一貫性・継続性を持たせよう、というところである。

さらにはしっかりしたVIを制定すれば以降それを正しく使い続けることでイメージの相乗累積効果を期待することができる。(ポスターやチラシ、Web、DM、プレスリリースなどのツールのデザインに統一感を持たせることで生まれる相乗効果と、消費者がそのツールを2回、3回、4回…と目にするごとに印象が強化される累積効果が上手く組み合わさった効率の良い効果を相乗累積効果という。)

このVIの実制作については別の機会に詳しく記したい。

 

「段階を踏んだプロモーション」

AIDMAの法則というのがある。広告や広報の仕事をしている方にはおなじみの法則かもしれない。AIDMA(アイドマ)とはAttention(注意)→ Interest(関心)→ Desire(欲求)→ Memory(記憶)→ Action(行動)の頭文字を取ったもので、消費者が商品の購入に至るまでの心理的プロセスを表したものである。インターネット時代の今はAISAS(アイサス)の法則が主流のようだが(SはSearchとShare)、本稿で言いたいのは要するに消費者の心理には段階があり、宣伝活動はその段階を踏まえて行うことが肝要だ、ということである。例えば販促物を作るにしても、ファーストコンタクトのAttentionの段階の人にアピールするのか購買を視野に入れたActionの段階の人にアピールするのか、狙いを定めることが大事である。よくある間違いは、ひとつの販促物でこの段階をかけあがらせようとするものである。1枚のチラシで注目を集め、内容を知ってもらい、購買までこぎつけるのは難しい(あるにはあるのだけども)。そしてそれぞれ販促物には特性があり、その特性を活かした利用を心掛けたい。例えばポスターはそのサイズや掲示場所などの理由により不特定多数の人(通行人など)にアピールすることが可能となり、故にAttentionの段階に向けたデザインをするのがよい。ポスターを見て商品を買ってもらうのではなく、まずは記憶に、というより無意識下に印象を残してもらうのを狙いとしたい。チラシは中々特性に幅がある。まず手に取ってもらうには目立つ必要があり、手に取ってもらった後は内容を読んで興味を持ってもらわないといけない。なのでできればチラシの表面は印象力の強いデザインにし、裏面に情報を充実させたい。

そして宣伝活動にはタイミングというものも大事である。フェスティバルで言えば本番3か月前に配布するチラシは具体的で詳細な内容のものより、感覚に訴え期待感を醸成するようなものにし、本番が近づいたタイミングでダメ押し的に購入を勧める内容のものを配布したい。

そしてWebとの連動も忘れてはいけない。ポスターやチラシに商品を告知させるのも大事だが、Webサイトへ誘導することも現代の販促物の重要な役割の一つである。Webサイトはよく「砂漠に建った一軒家」と例えられる。作っただけでは誰もアクセスしてくれないのである。SNSとアナログ販促物を使って周知に努めないといけない。

以上宣伝活動のセオリーの説明になってしまったが、提案したことはこのセオリーに則って宣伝活動しよう、ということである。

 

「Webをよりどころに」

NGFのポテンシャルというのはWebの活用で発揮できるのではないか?という思いがあった。動画・SNS全盛のこの時代、ニッチだが根強いファンの多いクラシックギター市場、そしてクラシック文化を広めるという使命。Webの活用ですべてが噛み合うのではないか。集客上の課題を解決するだけでなく、NGFブランドを育てることができるのではないか。とはいえ私自身はWebは専門ではなく、Web関連の分析・提案・実行については札幌在住のWebコンサルタント・エンジニアのY平さんに相談し、大いに手助けしていただいた。

まず集客上の主な課題として単純にSNS上での存在感が無いことが挙げられた。Webサイトは開設してあったものの、記事の更新量が少ない、内容が音楽ファンの興味を惹かない、Webサイトの構造が記事閲覧・拡散を促進していない、などの問題があり、効果を発揮していなかったからである。このあたりの問題は適宜対症療法的に解決することとなった。

そしてWebサイトを充実させていくことはNGFのポテンシャルの発揮にもつながる。NGF公式Webで出演者の紹介記事を読んだり演奏動画を観たりしてフェスティバル当日へ向けて期待感を高めていき、フェスティバルが終わったあとも内容を振り返って楽しむ。フェスティバル会期以外の時期も情報を発信することでその存在をファンの中で育てられることができる。そしてゆくゆくは毎年の公演記録や記事が蓄積されてレガシー化、アーカイブとなり音楽ファンが注目する存在となっていく。ファンがWebサイトを訪れて記事や映像にふれることでNGFの存在を感じる、ある種よりどころのような場所を公演以外で持てることがWebサイトがNGFにもたらした新しい価値である。

 

 リニューアル後のデザイン
 

結果

提案は生田氏の興味を大いに刺激し、双方意見を交え内容を発展させたのちプロジェクトが正式にスタートすることとなる。まずVIの開発に1ヶ月以上かけ、並行してWebサイトやチラシなどを制作、フェスティバル本番3か月前にWebサイト公開やチラシ発送、ポスター掲示などの宣伝活動がいっせいに開始された。Webやチラシ、ポスターなどはNGFテーマカラーであるイエローが印象に残るようにデザインWebサイト公開後は生田氏にがんばっていただきNGF関連の記事を3日に1つのペースでアップしてもらった。SNSでの拡散やページビューなどの反響は最初は穏やかなものだったが少しづつ着実に増えて行った。フェスティバル本番1週間前のタイミングではダメ押しで来場をお願いする記事をアップするなど、課題であった段階的な宣伝施策を実行することができた。(本当は直前用のチラシやDMを作って発送しダメ押しとしたかったが、費用と手間の問題がある。こういう場合Webは非常に便利である。)また同時期にフェスティバル出演者が東京での別のコンサートで素晴らしい演奏をしたらしく、そのことを記事にしたら大きな反響を得て駆け込みの来場者が増えた。このスピード感も紙には無いWebプロモーションの強みである。NGFの新生プロモーションを行った2017年の集客は、前年より公演数が減ったにも関わらず来場者数は変わらず、諸々の施策が功を奏したと言える。先日2018フェスティバルに向けたプロモーションがはじまりWebサイトに2018年最新記事がアップされたが、うれしいことに前年の3倍の反響があったと聞いている。少しづつ注目してくださる人が増え、ブランドが育ってきているのを感じる。

 

名古屋ギターフェスティバル 公式webサイト

 

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