書評『トップコンサルタントが明かす ポストM&A成功44の鉄則』著:田中大貴

企業のM&A後の統合をPMI(Post Merger Integration)と言う。M&Aは実行だけでなくその後の制度や仕組みの統合の質が成否に大きく関わってくる。本書はM&A後3年以上経過した“ポストPMI”のコンサルティングの鉄則を解説した本である。

自分は大きな企業に勤めたことも無いしそもそもビジネス畑の人間ではないのだが、企業とは“人”である、という実感を持っている。事業計画からクリエイティブワークに至るあらゆる企業活動は、人心、内心、感情、無意識、そういったものを汲み取らなければいけないと感じている。“経営コンサルティング”というものにはどこかエリート的で、優秀だが没感性的であるというありがちな偏見を抱いていた。しかし本書の筆者自身、所属する会社が実際に買収される経験を持ち、辛い思いをしたという。

買収後、会社の雰囲気は一変した。社内ルールは徐々に買った会社、つまりは親会社色に染まり、社名は思い入れのないモノに変わった。馴染みのある同僚は、変化する会社にとどまることを選ばず、他社に転職していく。「コンサル会社が、M&Aに失敗した」と、周りから揶揄される声を聞くこともあり、寂しい気持ちになった。

そんな一文のあるまえがきではじまる本書は先述の私の偏見とは真逆の泥臭さ、骨太さが随所から感じられる。

M&Aの後社内で発生する問題・課題には「腹を割って議論ができない」「現場が新しいトップの方針に腹落ちしていない」「不安を感じた人材がどんどん辞めていく」などが挙げられる。どれも感情、心といった面からくる問題なので対処しづらいところはあるかもしれない。こういった問題への対処として筆者は例えば「腹を割って議論ができない」ケースには、会議は結論だけでなくプロセスも重視すること、と説明している。曰く、人間急にトップダウンで命令されても素直に受け入れ難いが、自分で考え周囲と議論して出した解には納得感を持ちやすい。「人間は自分が関与しないものには納得しない。ゆえに、会議では、議論の結果だけではなく、議論のプロセスが重要となる。」(本文より)とのこと。また「現場が新しいトップの方針に腹落ちしていない」という問題には「懸念緩和ダイアログ」という対処法を解説している。それはファシリテーター主導のもと、現場スタッフがトップの方針説明に対する疑問や懸念を付箋などに書いて洗い出し、それを元に質疑応答を重ね相互理解を図り、スタッフ間の議論ののち最終的にはトップが再度方針説明をするという方法なのだが、これをやると参加者の不安感は薄まり納得感が増すという。こちらもスタッフの関与というプロセスを大事にしている。そして本書で解説されているその他の対処法も、“プロセス”を大事にしている。結論や正論を上から提示するのではなく、スタッフ同士で議論しあい腹落ちすることが重要だ、と説いている。この本は魔法のような解決法を教えてくれる本では無いが、問題に真っ正面から取り組む気概のある人には相性が良さそうである。

 

ちなみに、組織の統合という課題に対してデザインはどう関われるか?という話をさせてもらうと、デザインにもアウトプットだけでなくプロセスもあり、課題にはこの2つのかけ算で取り組むことができる。

デザインには価値観をビジュアル化し、関係者の意識を方向付けたり統一させ、そしてそれを内外にアピールしていく力がある。例えばCI(Corporate Identity)の分野で教典的な事例としてPAOSによるNTTの変革事例がある。これはM&Aではなく官営企業の民営化の事例なのだが、30万人の巨大組織の変革という大仕事である。ロゴやカラーリングなどのビジュアルアイデンティティー作成、NTTというブランド制定などを通して“NTTらしさ”を創り上げていくのだが、そのアウトプット完成までに社員をはじめとした関係者を対象に多くのヒアリングを行っている。それはもちろん調査のためでもあるが、ヒアリングなどのCI活動をすることで関係者の注目度・参加意識を高めていき、組織の意思統一へと導いていくのである。

 

…とりあえず第一稿公開。後日加筆修正予定。

慣れない分野の本を読んで多少疲れた感もある。そろそろ書評以外のことも書いていこうと思う次第である。

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